【事例Ⅳ】間違えを起こしにくい取替投資の解き方を考える【財務会計】
診断士の二次試験から早くも1カ月あまり。
試験前は事例問題なんか見たくもないと思ってましたが、試験が終わると不思議と寂しさがこみ上げてきて、今でも時々、事例問題を解いてしまっています。
まぁ来年も受ける可能性高いですしね。。
みんなのトラウマ事例Ⅳ
ツイッターや各受験校の解説を聞くと、今回はやはり事例Ⅳで苦戦した人が多かったみたいですね。僕も事例Ⅳはかなり自信があったのですが、予想外の形式に戸惑ってかなり焦りました。
とくに第3問の取替投資の問題は苦戦した人も多かったようですね。
そこで今回は復習として今年度の事例Ⅳ第3問を例に、取替投資の計算問題について、間違いにくい計算方法を考えてみたいと思います。
なお、今回の解答は1年度末の差額キャッシュフローだけを最初に求めさせるという、ちょっと不思議な形式だったため、その部分は無視します。
あくまで、最終的なNPVを正確に算出することを主眼に考えていきます。
これから勉強する人、僕のように来年に向けて計算方法を忘れないでいたい人は読んでみて下さい。
考えるポイントは?
取替投資の問題に取り組むにあたって大切なのは以下のポイントだと考えます。
- 計算要素の整理
- 時制の確認
- 要素を時系列に図にして確認
それぞれを解説していきます。
1.計算要素の整理
いきなり頭の中でCIFやCIOの計算を始めてはだめです。まずは計算に必要な要素を一つ一つ整理しましょう。
たくさんありますが、まずはこれらを問題文から抜き出し、どこかにまとめましょう。時間がかかるかもしれませんが、途中でわからなくなってやり直すよりはマシです。
*もちろん設問によっては考慮の必要のない項目もあります。
2.時制の確認
次に時制を確認しましょう。
この取替投資の問題において(というか投資の経済性計算において)時制を間違うとNPVの計算は絶対に合いません。
ここはしっかりと確認しましょう。
- いつの時点のNPVを計算するのか
- 初期投資の支出時期
- 旧設備の除去もしくは売却の時期
- 旧設備の除去損もしくは売却損益の税金の影響の発生時期
- 途中で利益額が変わる場合はその変動時期
投資、収益、費用、現金を伴う出費がどの時点で発生するのか、明確にしましょう。
繰り返しますが、ここで間違うとNPVは算出できません。
3.要素を時系列に図にして確認
要素と時制を整理したら、それらを図にまとめていきます。
ここでもう一度、この問題の求めるものを考えてみます。
この計算は「投資の意思決定のため」に行うものです。
つまり新設備に取り換えた場合と旧設備をそのまま使用した場合のCFの差分を求めなくてはいけません。新設備に取り換えた場合のCF額ではありません。差分がわからないと投資効果を比較できないので、意思決定できないですよね。
でも、いざ問題を解いていると増分ではなく単純なCF額を求めてしまうことが多々あります。
なのでそのような間違いを防ぐために、図も「旧設備をそのまま使用した場合」と「新設備に取り替えた場合」に分けて作成します。
なおここからは問題に沿って説明していきますが、問題が手元にない方は、以下のボタンを押すと表示できます。
旧設備の使用を継続した場合のCF
まずは旧設備の使用を継続した場合のCFを考えます。
ここで必要になる要素は①旧設備の減価償却費、⑤旧設備の廃棄費用もしくは売却価額(耐用年数経過時点)、⑥旧設備の除去損もしくは売却損益(耐用年数経過時点)、⑦旧設備を使用した場合の損益額、⑬法人税率です。
それぞれの計算はここでは省略しますが、これらを時系列に図にすると下記のようになります。線より上がCFプラス、下がCFマイナスです。
この数字は税引前の数字です。
ここでFCFの公式を思い出して税金の影響を計算します。
FCF=税引前営業利益 × (1-実効税率)+減価償却費-設備投資額 (*1)
(*1) 運転資金の増減額を考慮しない場合
ただ、この計算だと減価償却費を一度収益の中に入れて営業利益を算出しなければならず、間違いを起こしやすいので、以下のように計算します。
FCF=損益額×(1ー実効税率)+減価償却費×実効税率ー設備投資額
損益額は「収益ー現金流出を伴う費用」です。
どちらで計算しても結果は同じになります。
今回実効税率は30%なので、税金の影響を差し引きした収益額は140×(1-0.3)=98、減価償却費は10×0.3=3となります。
最後に設備除去損に節税効果を加味します。5×0.7=3.5ですね。
これらを図にすると以下の通りです。
新設備に取り替えた場合のCF
次に新設備に取り替えた場合(投資を実行した場合)を考えます。
考慮する要素は ②~④、⑧~⑬ですね。
ここで一番気を付けなくてはいけないのが、除去損の税金への影響時期です。
設問には「初期投資と処分のための支出は第X1年度初めに、旧機械設備の除去損の税金への影響は第X1年度末に生じるものとする」とあるので、旧設備の除去費用10はX1年期首に、節税額18(*2)はX1年期末に算入します。
(*2) 節税額:除去損60×実効税率0.3=18
もう一つ忘れがちなのが、新設備の耐用年数経過後の除去費用です。これを計算に盛り込まないといけません。
今回は残存価格0、除去費用5なので実効税率を考慮して5×0.7=3.5となります。(旧設備と同じです)。
旧設備の場合と同じように時系列に図にしていくと以下のようになります。税金の影響は計算済です。
差分を計算
ここまできたら、新設備と旧設備の各年度のCFの差分を出します。新設備の「合計」の数値から「旧設備」の合計の数値を各年度ごとに引いていきます。
これが、今年度の事例Ⅳ第3問設問1の「各年度の差額キャッシュフロー」の部分の解答になります。
NPVを計算
ここまで来れれば、NPVの計算は難しくないですね。
ただ、ここまできて間違わないように、できるだけ簡単な計算方法で計算します。
今回は以下の複利現価係数表だけが与えられており、年金現価係数表はありません。
だからと言って、1年ずつ複利現価係数を使って計算していると時間もかかり、小数点以下の計算となるため間違いも起こしやすいです。
なのでまずは複利現価係数から年金現価係数を求めましょう。
n年の年金現価係数は1年~n年の複利現価係数の和となります。
上記の場合で言うと、5年の年金現価係数は1年目~5年目の複利現価係数の和=0.9346+0.8734+0.8163+0.7629+0.7130=4.1002となります。
これを使って計算するとNPVはこうなります。
58×4.1002+18×0.9346-210=44.63
これでNPVが算出できました。
NPVがプラスのため、投資は行うべきと判断できます。
まとめ
1つ1つ丁寧に計算すればNPVの計算は難しくない
投資の意思決定問題は苦手な人も多いようですが、1つ1つ丁寧に計算していけば決して難しくないと思います。
診断士試験のレベルだと、基本的な解法を覚えていれば十分得点できるのではないでしょうか(これ以上に難しい問題が出たら誰もできないですし)。
図もこんなに丁寧に書く必要はありません。僕はこんな感じで書いてました。(もう少し字はきれいに書いた方がいい)
慣れた人は「こんな面倒なやり方するの?」と思うかもしれません。もちろんできる人は、最初から差分を求めて計算するなどショートカットしてもいいと思います。
ただ、このやり方の方が間違いが少なくなると思いますし、それほど時間が大幅にかかる訳でもありません。
始めにも言いましたが、途中でわからなくなって最初からやり直すのが一番時間のロスになります。そしてこの問題は間違うと0点になってしまうリスクもあります。
きちんと一つ一つ過程を残して計算していくことで、間違いも防止できますし、後戻りも楽になります。
受験してわかりましたが、診断士の二次試験は予想以上に緊張し、いつも通りに対応するのが難しい試験でした。
そのような状況で正確な解答を導くためには、自分の得意な形の解法を身につけておくことが重要だと思いました。その場で解法から考えるのは、かなり大変です。
この方法にこだわる必要はないですが、自分が確実に解答できる方法は身につけておくべきでしょう。
合格したわけでもないのに、長々と偉そうに語ってしまいましたが、少しでも参考になれば幸いです。
間違い無いよう確認はしていますが、不正確な点を発見されましたら、ご指摘下さい。また、「もっといい方法がある!」という方も是非教えて頂ければと思います。
これで実践!
記事を読んだらこの問題集で実践してみましょう。