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中小企業診断士の勉強法とその他諸々

『プロフェッショナル・コンサルティング』を読んで

 中小企業診断士の二次試験から一週間。

合格の程はわかりませんが、自分の次なる課題は「コンサルティング」という仕事について理解を深めることだと思っています。

僕はコンサルティング業務に携わったことは無く、合格していたとしても何もできる状態ではありません。

そこでコンサルの業務とはどのようなものか、どのような能力を伸ばす必要があるのかを理解するために本を購入し読むことにしました。

その中で非常に勉強になった本があったので内容を簡単に紹介します。

 

プロフェッショナルコンサルティング

戦略系コンサルタントとして長年活躍されている二人が対談形式で、現代のコンサルタントに求められる能力や考え方、コンサルティングのリアルな現場、日本企業の今後について語っています。2011年発売と少し古い本ではあるのですが、内容は全く古臭くなっていません。

お二人の経歴は以下参照してください。

非常に示唆に富んだ内容が多く、これからコンサルティングの世界に足を踏み入れようとする人にとっては読んでおくべき本ではないでしょうか。

今回は書評として学んだことをまとめておきたいと思います。

 

学んだポイント
  1. ロジカルに戦略を組み立てるだけのコンサルではダメ
  2. 必要なのは「ファクト」「論理」「情理」
  3. 現場経験、人への洞察力、幅広い勉強で能力は鍛えられる

1.ロジカルに戦略を組み立てるだけのコンサルではダメ

まずは「コンサルタントの在り方」について。二人は、現代のコンサルタントは戦略を組んで「これやったらいいですよ」と助言するだけではダメだと主張します。

組織の実行力が戦略の自由度を規定する

二人は現代の競争環境では、もはや優れた戦略だけ立案すれば業績が良くなる状況ではないと言い、チャンドラーの言う「組織は戦略に従う」に則り、戦略に合わせて組織を決めても成果を上げられないと主張します。

むしろ今の時代に考えなくてはならないのは「組織の実行力が戦略の自由度を規定する」という考え方で、組織の実行力によって取れる戦略の幅が決まると言います。

実行力以上の戦略は立案したところで実行することができないので意味がないということです。

 

これは最近製造業で不祥事が相次いでいることからも納得できる考えですね。彼らは組織の実行力以上の戦略を取ってしまい、結果的に現場にひずみを起こしてしまいました。より高度な戦略を取るためには組織の実行力を高めなくてはいけません。

 

ロジカルシンキングだけでなくロジカルコミュニケーションも重要

またロジカルに考えるだけではダメで、その考えを経営者や現場に正確に伝えなければなりません。

頭の中ではロジックができていても、伝え方に問題があると「ぼくのかんがえたさいきょうのせんりゃく」と受け取られてしまうということです。

組み立てたロジックを相手に納得してもらい初めてコミュニケーションが成立する。ロジカルシンキングだけでなくロジカルコミュニケーションも大切だと言うことです。

耳が痛いですね。

 

企業の実行力をいかにして高めるか

的確なソリューションを考案し良きレコメンデーションをまとめあげることができたとしてもコンサルタントとしての仕事として完結したことにはならない。コンサルタント自らが変革の推進者として現場を動かし、コンサルタント自らがビジネスリーダーを単に”教える”だけでなく”育て上げる”ことが必要なのである。その意味では、コンサルタントも「執行力」が求められるのである。

プロフェッショナルコンサルティング 東洋経済新報社 P148より引用 

コンサルタントは単に戦略を考えて「こうしたらいいですよ」と助言するだけでなく、経営者と一緒になって業務を執行し、現場を変革していかなくてはならないと言うことです。

最初に書いた通り、組織の実行力が無いと高度な戦略は取れません。どうすれば組織の実行力が高められるか。そこまで考えて施策を実行していくことが必要なのでしょう。

 

2.必要なのは「ファクト」「論理」「情理」

続いてコンサルタントとしての考え方について。二人は「ファクト」「論理」「情理」がすべてと説きます。

ファクト

現場を見ずにネットや資料で調べた情報で戦略を組み立てても、リアリティの無い戦略になってしまうので経営者には刺さらない。かならず自分の足で一次情報にあたることが重要。

論理

そしてそうして集めたファクト(一次情報)を論理的に深く解析していく。そこから成功に導くクリティカルファクターを導き出すことが必要。

情理

情理も論理。「完璧なロジックなのに相手がバカだから理解してくれない」「現場が感情的に反対する」という考えは言い訳。そのように反対する情理の背景には何があるのかまでをしっかりロジカルに考えなくては、納得性のあるソリューションは提示できない。

 

この考え方はコンサルタントでなくても重要ですね。

ファクトを見ず推測だけで話す人、ファクトは知っててもそこから深い考察を得られない人、すべてを論理で押し通そうとする人、皆さんあてはまる部分があるんじゃないでしょうか。これも耳が痛いですね。

 

3.現場経験、人への洞察力、勉強で能力は鍛えられる

最後にコンサルタントとしての能力の伸ばし方、伸ばす方向性について。

現場経験の重要性

リアリティのある戦略を提示し実行するためには、現場の経験や肌感覚がわからないといけない。MBAで学べることはコンサルタントで必要な能力の10分の1とのこと。現場を歩かないとファクトは集まらないし、リアリティのある戦略は組めない。

この本で一貫して重要と言われているのが「リアリティ」。これをベースにしたコンサルティングでないとまず納得してもらえないし、実行しても上手くいかないとのこと。

「現場主義」と一見当たり前のようなことを何度も主張しているのを見ると、やはり机上の論理だけでコンサルティングを行ってしまう人が多いのでしょうか。

人への洞察力

組織は結局人からできている。組織を変える時にぶち当たる壁は「人」。人への洞察力を持ち、そこへアプローチする方法を身につけないと何も変えられないコンサルタントになってしまう。

勉強し続ける

 ロジカルシンキングはもちろん、経済、歴史、哲学、政治。様々なジャンルの幅広い知識を身につけていく必要がある。知識を身につけるだけでなく、各事象について徹底的に考え自分なりの意見を持つ。過去の歴史などについては自分が当事者ならと想像し、どう判断するかということまで考え抜く。

3カ月に一度修士論文を書くくらいの勢いで勉強しないといけないとのこと。

非常に厳しいご意見。

 

 

まとめ

本書を読んで内容とは別に参考になったのが、「全体の一貫性」。

会話形式で様々な方向に会話が飛ぶにも関らず、主張の一貫性やロジックの破綻がありません。普通、色々な方向の話をしていると自分の主張に一貫性が無くなったり論理的に矛盾したことを話しだしてしまうのですが、二人の会話は主張したいことが一貫していて、話の方向が変わってもそれがズレません。

だから非常に読み手としては読みやすく、難しい内容もあるのですが、スラっと読めてしまいます。話しながらでも常に頭の中でロジックを構築しながら話をしているのがわかります。

 

紹介した内容以外にもカネボウの再生や90年代後半から2000年代にかけての携帯電話市場における競争戦略など興味深い話が掲載されています。

若手に対して厳しい意見も多く、読むと身が引き締まる思いになります。

とても勉強になる本なので是非一度読んで欲しいと思います。