【直前期必見!】2016年度版中小企業白書のエッセンスをまとめてみる~第1部編~
対策が意外と面倒な科目の「中小企業経営・政策」。ひたすら暗記で疲れますよね。
今回から3回にわけて2016年度版中小企業白書のエッセンスを自分の勉強のついでに、まとめてみたいと思います。
試験対策としては細かい数字も覚えなくてはいけませんが、まずは大まかな内容を理解することが大切だと思います。見てくれるみなさんの参考になるようにまとめていきたいと思います。
*なおここで使用している図表に関しては中小企業庁のHPより利用規約に則り引用しております。
第1部
第1章 我が国経済の動向
この章で書かれている内容をまとめると以下のようになります。
- 2012年末から我が国の経済は緩やかな回復傾向にある
- 雇用環境は改善し企業の経常利益は過去最高水準にある
- しかし、設備投資や個人消費の回復には遅れがみられる
この章では現在の日本経済の動向が、GDPの項目ごとに述べられています。
GDPの項目とは何だったでしょうか?経済学を思い出してみましょう。
Y(GDP)=C+I+G+(X-M)
C:消費、I:投資、G:政府支出、X-M:純輸出
これらの各項目について白書では現状が述べられていますが、この部分は試験にはあまり出ないようなので、上記のおおまかな流れを押さえていればいいのではないでしょうか。
第2章 中小企業の現状
- 中小企業も経常利益は過去最高水準
- 倒産件数も25年ぶりの低水準
- しかし利益増の主要因は原油価格の下落で、売上高の拡大を伴っていない
- 設備投資はリーマンショック前の水準に及ばず、設備の老朽化と人手不足が深刻化している
中小企業数の推移
中小企業数は減少傾向ではあるが、2012年2月から2014年7月にかけては年平均で▲1.8万者と、以前と比較し減少のペースは緩やかになっています。
規模別では中規模企業数が増加し、小規模企業は減少しています。増加、減少のそれぞれの要因は「開業」と「廃業」です。
業種別では「医療・福祉」と「卸売業」の企業数は増加していますが、それ以外は減少しています。
倒産・休廃業・解散件数の推移
これらはすべて減少しています。特に倒産件数は25年ぶりの低水準です。会社の規模別でもすべて減少しています。それだけ、中小企業を取り巻く経済環境が良くなっていることが読み取れます。
中小企業の足元の業況
中小企業の景況感はリーマンショック後持ち直し、2013年にはリーマンショック前の水準に回復。その後、消費税増税で落ち込み、それからは横ばいで推移しています。
ただ、大企業と中小企業を比較すると、中小企業の方が景況感は低い水準にあり、規模の小さい企業はまだまだ苦しいことがわかります。
ただ、中小企業の資金繰りDIは回復基調で、倒産件数の減少とあわせて見ると経営環境の改善が読み取れます。
中小企業の収益構造の分解
次に中小企業の過去最高水準となった経常利益の中身を分解してみてみましょう。
ここで書かれているポイントは以下の2点です。
- 中小企業の経常利益が最高水準となった要因は変動費の低下(原油安)と人件費の削減
- 売上高は減少している
結局、原油が安くなったのが大きかったということですね。
少し意外なのは、中小企業の売上高は2015年10-12月時点でもリーマンショック前の水準を下回ったままです。
大企業と比べて中小企業の売上高が伸びないのは、輸出比率が低いことが一つの要因です。円安の恩恵を中小企業ではあまり享受できていません。
中小企業の人件費は2014年以降、ほぼ横ばい。全体の雇用者が増える中で中小企業で働く人は減少しており、人手不足が深刻化しています。その要因としては大企業の賃金や労働条件の差が挙げられています。
設備投資に関しては設備の過剰感は解消されてきているものの、先行きの不透明感を理由に設備投資は活発に行われている状況ではありません。結果的に設備年齢が上昇し老朽化が進んでいます。
第3章 中小企業の生産性分析
まずはここで言う労働生産性の定義です。
★ 労働生産性 = 付加価値額 / 労働力
つまりは労働者がどれくらい効率的に成果を生み出したかを定量的に評価した指標が労働生産性です。「一人当たり付加価値額」とも言い換えることができます。
ここでこの章の大まかな内容をまとめます。
- 中小企業の労働生産性の平均はすべての業種において大企業を下回っている
- しかしながら一定数(1~3割)大企業を上回る労働生産性を有する中小企業も存在する
- そのような企業は資本装備率や設備投資額が高くなっている
次に以下の図を見て下さい。
どうしても、労働集約的な産業の方が労働生産性は低くなってしまいますね。特にサービス業は以下の要素を持つため生産性は低くなってしまいます。
- 同時性 - サービスの提供と消費が同時に行われる
- 不可分性 - サービスの提供と利用が同じ場所で行われる
- 消失 - サービスは在庫を持てない
製造業などでは製品はまとめて生産を行い在庫をもっていればいいのですが、サービス業では当然ですが在庫の概念もありません。
従ってサービスを提供する間、常時人を使用する必要があるため、サービス業の生産性は見ての通り低くなりがちで水準のバラツキも小さくなります。
大企業を上回る生産性をもつ中小企業の存在
全体の平均では中小企業の生産性は大企業の平均を下回っていますが、製造業では約1割、非製造業では約3割の中小企業が、大企業の平均を上回る生産性を有しています。
製造業の方が大企業と中小企業の生産性の差が大きいですが、それはなぜでしょうか?
それは製造業は基本的に規模の経済性があるからです。つまりは生産量が多くなればなるほどコストが下がる(収穫逓増)ので、大規模な会社になるほど生産性が向上します。なんとなくイメージでもわかりますよね。
逆に非製造業の場合は、先ほどのサービス業の特性でも示した通り、規模の経済性が発揮されにくい業態になります。会社が大きくなれば人も比例して増やしていかないといけないからです。
したがって労働生産性を比較する際には製造業の場合は規模別のアプローチ、非製造業の場合は業種による特性を考慮したよりきめ細やかな業種分類で対応を行う必要があるとしています。
中小企業の全要素生産性 TFP(total factor productivity)
全要素生産性(TFP)とは何でしょうか?
全要素生産性とは「付加価値額の伸び率のうち資本投入の寄与分と労働投入の寄与分を除いた部分」とされています。
人を増やしたり、機械を新たに投入すれば付加価値額は増えますよね。
もし機械や人を増やした以上に付加価値額が増えていたらそれは何でしょうか?
新しい技術を利用することで生産効率が向上したのかもしれません。販売方法を見直すことで同じ人数でも売上を上げることができたのかもしれません。全要素生産性とはそのような変化が付加価値額に与えた寄与分にあたります。
つまりは全要素生産性とは量ではなく質的な部分の寄与度を表しているのです。イノベーションや技術進歩がどれくらい付加価値額の増加(減少)に寄与したかを表しているのです。
業種別のTFP伸び率は見ての通りです。伸びていないもしくはマイナスの業界はイノベーションや技術進歩が起きていない業界とも言えます。
中小企業生産性の業種別比較
ここでは以下の内容が述べられています。
- 中小サービス業、娯楽業の労働生産性は非製造業全体の平均を大きく下回っている。
- しかしながら21.9%(約2割)の企業が大企業サービス業の平均を上回っており、そのような企業は設備投資やIT投資を積極的に行っている
- 中小小売業のうち34.5%(約3割)の企業が大企業小売業平均以上の労働生産性を有している。
- そのような企業は設備投資額が大きく、情報処理。通信費、資本装備率、従業員1人当たり人件費も高くなっている
要するに中小企業でも設備投資やIT投資をきちんと行えば大企業以上の生産性を保持することができますよと言うことですね。
第1部まとめ
第1部をほんとうにざっくりとまとめてみると
- 日本企業の企業業績(経常利益)は絶好調で過去最高水準
- でも設備投資や消費があんまり伸びてこない
- よって売上高が思ったほど伸びておらず、最高益の要因は変動費の低下(主に原油価格)によるところが大きい
- そんな中でも設備やITに投資している中小企業は生産性を向上させて業績をUPさせている
こんなところでしょうか。
日本経済は好調さが伝えられることが多いですが、こうして中身を見ると手放しで喜べる状態ではありませんね。
特に守りに入って設備投資もしない企業は、今後人手不足が深刻化するにつれて状況はますます厳しくなることが予想されます。
IoTやAIによって生産性を向上させる技術は年々進歩しています。
これらの技術を適切に取り入れていく企業がこれから生き残っていけるのではないでしょうか。